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Bloombergが太陽HDがDICを買収して傘下に収めると報道
Bloombergが2025年1月6日に「太陽HDがDICを買収して傘下に収める」と思わせる記事が掲載されました。
このニュースは知ってはいたものの、続報もなく「誤報(フェイク)」の可能性もあることから今まで静観していました。
Bloombergの記事によると、
- 太陽HDとDICは2017年に資本業務提携を結ぶ
- DICの時価総額は約3200億円
- 太陽HDの時価総額は約2300億円
- DICは太陽HDの株式を19.25%保有する筆頭株主
- DICの第2位株主は、香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメント
と書かれており、時価総額やDICが筆頭株主になっている時点で、太陽HDがDICを買収するのは「常識的に考えたら難しい」わけです。
しかしながら「ファンドの入れ知恵」によっては「可能性は全くゼロではない」わけで、天下のBloombergが報じるということは「なにかしら根拠がある」から報道していると考えられます。
余談ですが、太陽HDは太陽誘電とは全く関係ない法人です。
太陽ホールディングスは、化学メーカであり、創業時は「太陽インキ製造」という会社名です。
太陽誘電は、電気機器製造会社です。
PCの自作を趣味とされている方々とっては、太陽誘電といえば「CD-R」、「DVD-R」という記録メディアを開発販売して高品質であることから重宝されていたので知名度が高いですね


一方、太陽HDの主力事業は、電子基板に用いられるソルダーレジスト(SR)のシェアが世界トップクラスです。

電子基板は銅の回路がむき出しになっている状態からSRを塗布することで隣接した回路とショートすることを防止したり、保護することで断線を防ぐことができます。
太陽HDがDICを傘下に収める可能性について
太陽HDの従業員数は、2025年1月時点で連結で2,210名、単体で156名です。
DIC株式会社(ディーアイシー)の従業員数は、2023年12月31日時点で連結で22,255名、単体で3,973名
太陽HDの2024年3月期の年商が約100憶、当期利益が約8憶でコロナ禍でも赤字になることなく堅実で安定した業績です。
一方、DICは、直近のM&Aの「誤算」で、2023年12月期の売上高は約1兆387億3600万円。コロナ禍以降、損失が大きく2023年12月期で約23年ぶりとなる最終赤字に転落。最終損益の赤字幅は398億円(前期は176億円の黒字)
年商や従業員数だけをみたら、赤字とはいえDICが太陽HDに買収されるとは到底思えません。
しかし、「時価総額の比較なら約3200億円のDIC、約2300億円の太陽HD」ですから、DX化で経営効率がよく最小の人件費で設備投資と堅実な経営をしている太陽HDに全くチャンスがないと言えるのでしょうか?
M&Aを繰り返して規模拡大のDIC、慢心せず時代に合致した経営の是非
DICは、明治の創業から創業100年で商号を変更してきました。
- 1908年(明治41年)2月15日 川村インキ製造所として創業
- 1937年(昭和12年)3月 大日本インキ製造株式会社を設立
- 1962年(昭和37年)10月 商号を大日本インキ化学工業株式会社(英文表記:Dainippon Ink and Chemicals, Inc)に変更
- 2008年(平成20年)4月1日 - 創業100周年を機に商号をDIC株式会社(ディーアイシー、英文表記:DIC Corporation)に変更
DICを正式な商号にする以前から業界関係者はDICと呼ばれていたのですが「ディック」と間違った呼ばれ方をすることが多かったようです。
「dick(ディック)」は、英語で男性器の陰茎を指すスラングであることを知らず会社名を呼ばれることも起因してDIC(ディーアイシー)に正式名称を変更もあるでしょう。
2007年に創立100周年で世界最大手のガラスメーカー旭硝子もAGCの略称を世界展開の一環で「統一ブランド名」への定着をさせる旨を発表。、2018年(平成30年)に正式に社名変更しました。
大日本インキ化学工業からDICへの社名変更は、AGC同様、世界展開でのブランド名の統一の側面が大きいのですが、俳優の吉岡里穂をCMに採用して「DIC=ディーアイシー」の呼び名を定着させるプロモーションが展開されています。(それでも、未だに「ディック」と呼ぶ人が多くいるのが現状だったりします。)
少し古い記事(2020年)ですが、DIC社長が会社の成り立ちを語っています。
創業一家の川村一族は、企業として無名時代から「積極的にM&A(TOB)を実施」、「お金で時間を買って企業規模を拡大して今に至る」と言い切っています。
TOBには、友好的買収と敵対的買収があるわけですが、無名で企業規模か小さい大日本インキ時代に日本がバブル期だったとはいえ、米国企業を敵対的TOBで強引に傘下に収めたことを報道で「武勇伝のごとく大々的に語っていた」のです。
上記リンクの記事内には以下のような文面があります。
「パイオニア、グローバルスピリッツが強く、リーダー自ら実践していた。その先には、技術でも営業でもグローバルシェアNo.1を勝ち取るんだという強い気持ちがあって。その精神は突然生まれたわけではなく、60年代から規模は小さいながらいくつも行ってきた。武者震いをしながら『大きな企業を傘下に収めていこう』という気概があったのです」
つまり、意図的に敵対的TOBで自身よりも大きな企業を傘下に収めることを野心的に実践して、世界有数の化学メーカーになりあがったわけです。
しかし、コロナ禍で液晶ディスプレイに使われる部材の売り上げ不振、顔料事業の不振によって減収減益。
2023年12月期に「最終赤字398億円」はドイツ企業の買収が大きな引き金になったわけです。
規模の拡大と事業買収が、昨今のDXやIT、IoTといった流れのデジタル化社会を見据えた中長期的な戦略をどこまで意識していたのかという疑問と課題があるように思えます。
DICの主力事業は旧態依然のアナログ産業依存、デジタル分野では周回遅れなのか?
DICの主力は、昔ながらの印刷機を使用したインク製造です。
また、様々な産業に材料を提要するサプライヤーでもあります。
しかし、前述に記載したリンク記事にある液晶ディスプレイの材料供給の撤退したように、海外の競合企業の安価で高品質な材料での価格競争や市場の飽和によって既存事業が失われる事態に至っています。
一方、インクジェットプリンタに代表される「デジタルプリンティング」では、過去にエプソンと水性顔料のインクジェットインクを共同開発していた経緯があります。特許データベースを検索するとわかりますが、エプソンとDICの連名で「共同出願」されいるものがあり、エプソンが2000年前後に発表した「ミュークリスタ」と命名した水性顔料インクの開発を行っていたと考えられます。
また、キヤノンにインクジェットインクを製造販売して供給しているのでは言われております。
したがって、デジタルプリンティング関連のインク開発では先発組だったのですが、DICの売上比率では「デジタルプリンティング事業の収益は軽微」にとどまっているのが現状です。
有機ELモニター事業にも着手していると考えるのが妥当ですが、事業としては成立していない模様です。
DXとかけ離れた昭和の古い体質と文化の大企業問題
DICに限った話ではありませんが、私の友人知人との会話の中に中堅の商社やマスコミ関係には歴史がある企業は未だにバブル期を引きずった体質の企業文化や人材がいると感じます。
歴史の長い中小企業ですとDX化が遅れていて非効率でアナログ依存の社内インフラのままだったり、積極的にDXを取り入れ効率化を徹底している企業と二分している状態です。
私が在籍していたコンピュータ周辺機器メーカの場合は、2000年初頭から3DCADやERPを導入していました。
RolandDGのDGは「デジタルグループの略称」ですから、社内を最先端のデジタル化で構築し業界をリードする存在。そして、デジタルの恩恵を社会に提供して広めるというミッションを掲げている企業ですから、当時親会社であった電子楽器専門の最大手Rolandの哲学を共有していることからも、2000年以前からデジタル機器の活用と普及に積極的ですから「創業の企業文化に依存する」わけです。
話がそれているので、Roland関連のデジタル事情は、別途記事にします。
つまり、ケミカルとかインクというデジタル機器とは乖離した商品開発している企業は、アナログ環境がベースですから企業文化的にデジタルに疎く、社内システムや自社製品をデジタルと融合させるという風潮が弱い傾向があります。
社内の情報システム関係部署もIT関連企業やデジタル製品を開発している企業と比べると弱いです。
国内のDIC競合メーカーの躍進
日本の印刷インキ三大メーカーといわれるのは「DIC、東洋インキ、サカタインクス」です。
会社の規模ではDICが圧倒的します。
同じ印刷インキメーカーですが三社は各々が得意としている分野で差別化されていました。三社ともインクジェット用のインク開発製造を手掛けており、新聞印刷に収益依存していたサカタインクスは「デジタルインク開発」に社運をかけようと意気込むくらいの危機感があり、昨今では、東洋インキとともに「デジタルインクの販売比率」を伸ばして堅調な業績となっています。
規模の小さい企業のほうが小回りが利いて意思決定と、成し遂げようとする熱量があることが結果につながっていると考えます。
もちろんDIC社員にも危機感はあるのですが、規模の小さい企業に比べると楽観視している風潮が垣間見えます。社員に優しい居心地のよい職場と、それなりの能力があれば、一般職で年収1000万を超える社員が数多くいる。日本で年収1000万超える人材が数パーセントしかいないという自負をもちながらも社内政治重視の出世意欲と終身雇用に守られていることで、自社が倒産したり大きく業績が下降する危険性があっても「自分たちは大丈夫だろう」と当事者意識が薄いのではと、関係者と話していると私個人は感じることがあります。
デジタルプリンティングでの業務提携ではありませんが、2023年にはサカタインクスとDICは、子会社のDICグラフィックス株式会社を新聞インクと物流関連で業務提携しています。
ちなみに子会社のDICグラフィックス株式会社は、DICとDNP(大日本印刷株式会社)の共同出資で設立された合弁会社、いわゆるJV(Joint Venture)ジョイント・ベンチャーです。
複合機メーカーが日本企業で構成されていて、統廃合や業務提携によって、縮小する業界の再編記事を書きましたが、印刷機とインクやトナーは、持ちつ持たれつの間柄です。
DICに未来はあるのか!?
コロナ禍以降、急激に業績悪化が報じられるDICですが、TOBとM&Aで規模拡大してきた印刷インキの最大手メーカーは、TOBを仕掛けられても、M&Aのノウハウはあるので、そう簡単に買収されることはないと考えられます。
しかしBloombergが報じた重みを考えると、この先の業績やファンドの攻勢次第では「可能性がゼロでは無い」わけです。
円安の現在、外資系ファンドは日本企業を狙い撃ちでTOBを仕掛けていることが様々な業種で報じられています。そのような背景も鑑みると楽観視できない状況でしょう。
今後もDICや印刷インキメーカー、デジタルプリンティング界隈の動向に注目してまいります。










